潮にのってきた彼女
町の喧騒を抜けて帰る時、アクアのことを考えていた。


最後に会った日俺は自分勝手に好きだと言った。
言って大きく変わる何かを期待するでもなく、向こう見ずに自分の気持ちを吐き出した。アクアはそれを受け止めた。

一緒に生きて行くことは難しい俺たちは、これからどうなるのだろう。


ただし、今一番考えるべきは真珠のことだ。

結局真珠の還る場所はどこなのだろうか。
例え見つかっても、それを黙って廃棄処分してしまうことが有効に思える。
何もなかったことにしてしまうのだ。


しかしアクアの話しぶりからして現在の女王は、成果を上げない捜索隊(と言っても15人にも満たないらしい)を長く野放しにはしておかないだろう。
シェルライン家の血筋を抹消しかねない。
そしてきっと、今度はおびただしい数の軍隊を送ってくるのだ。

血筋がなくなれば家宝も何も関係ない。武器だってあるだろう。


地球における海と陸の割合はおよそ7:3。
7割を占める世界が反乱を起こせば、これはもはや地球規模の問題だ。



――改めて考えた時そこに思い至った。多少大袈裟かもしれないけれど、そうならないという保障はどこにもない。
解決することの重要性をひしひしと感じる。

何はともあれ、真珠を発見してしまうことが、最優先事項なのかもしれない。


だけど。
俺はコンクリートから立ち昇る熱気と人ごみのほこりっぽさが充満した路地で、はたと立ち止まった。

真珠を見つけることはアクアとの別れを意味する。
今まで真珠探しに熱意を注げていなかった理由もそこにある。

最悪の事態を考えれば、そうも言っていられないように思えるが、そんな簡単な問題ではないようにだって思える。

ただ、いつか別れなければならない時が来るのも確かだ。
いつまでも今のようにというわけにはいかない。海には海の、陸には陸の生活がある。



難しい問題だった。全てがうまくいくような解決策はきっとない。
何かを犠牲にしなければならないのだと思う。
それは予想というより確信だった。

そして犠牲にする何かを決めるのは、俺たち、もしくはアクアだ。

その日が来るのが、怖い。


ビルの間に挟まれ蒸された路地を、冷たい風が一筋吹き抜けた。
< 133 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop