潮にのってきた彼女
久しぶりの故郷で過ごす時間はあっという間に過ぎて、島へ帰る日になった。
少し増えた荷物を車に積み込み、お別れを言う。


「またな。結実、進也」


小さな結実は後ろで手を組み、上目遣いでこちらを見上げる。


「今度、いつ、帰ってくるの?」

「さあ。次は、秋の連休か、冬休みかな。……でも、もしかしたら、すぐになるかもしれないし」

「兄ちゃん」


進也がおずおずと言葉を発する。


「庭の、倉庫に入ってる、兄ちゃんの……」


はっきりとしない物言いに、ピンと来た。小さいながら気の遣える弟なのだ。


「バットのことだろ。あんな汚いのでいいなら使えよ。確かに値段は張った、いいやつだった気がするけど」


進也の顔がぱあっと輝く。


「あれがいいんだ! 兄ちゃんが使ってたやつがいいんだ!」


いつ言いだそうかと、俺の帰郷中、進也は悩んでいたに違いない。
かわいい弟の頭を、力を込めて撫でる。ついでに結実も。


「じゃあ、な。プラムの世話、よろしくな」


まだ寝ている、プラムの小屋の方を見た。
犬は人間の7倍の速さで成長するという。離れていたのが4ヶ月だから、28ヶ月。2年以上だ。

次に見る時もまた、大きくなっているだろう。
今見た姿の面影もなくなっているかもしれないなと思うと、少しだけ寂寥感がこみ上げてきた。

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