潮にのってきた彼女
――波の音が、聞こえてきた。


鼻腔を潮の香が通り過ぎる。
そして肌にはうっすらと熱。


顔周りの熱はおそらく太陽のもの。
背中の熱は浜辺の砂によるもの。


浜辺……。
浜辺の上に、いるのか?



視界は紗をかぶせられたように曇っている。
すぐ近くに、ひとの気配。


やがてぼんやりとした視界に、ひとの形の影が浮かび上がってきた。

輪郭のぼやけた影。
その年齢も顔つきも性別も判断させない。

ひとであるのかどうかすら。


頭がうまく働かない。
目の前の霞は晴れない。

一体、俺は……


「大丈夫!?」


視界が急激に鮮明になった。
何もかもがぼやけた意識。
その中に飛び込んで来た声。
全身の神経が、一気に目覚めた気がした。
< 14 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop