潮にのってきた彼女
岬に到着し、岩伝いに進んだ。干潮らしく、歩きやすい。フジツボに覆われた岩壁を触っていると安心できる。
浜辺が見えてくるのと同時に、亜麻色の髪が見えた。

アクアだった。彼女は浜辺へ出て座っていた。

下半身も陸に引きあげて、横座りをしている。髪は背中に垂らし、うつむき気味で、じっと動かずにいる。

陽光で、水滴のついた肌がきらきらと光った。
アクアは両手を胸の前で組み合わせて、祈るようなポーズをしているらしかった。

少しの間、職人が丹精込めて創り上げた彫刻のようなその姿に目を奪われ、そのあとで呼びかけた。


「アクア」


はっと顔が上がり、すばやくアクアは振り向いた。
笑顔を湛え、優しい声で言う。


「お帰りなさい!」


帰って来たな、という感じがした。俺は島に、帰って来た。

山と海とをいっぺんに抱えられる島。太陽は強くても、照り返すコンクリートの多くない島。光る海に囲まれた島。
豊かな島。
人魚のいる島。

やっぱり早く帰って来てよかったと思った。
早かった分だけ、ここにいればいいのだ、と思った。
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