潮にのってきた彼女
膝下まで浸かって久々の海とたわむれていると、まあばあちゃんたちに会っていないことを思い出した。


「そういえば、そろそろ帰らないと。ばあちゃんに、何にも書き置きしてこなかったんだった」

「おばあさんと、お手伝いさんと、3人暮らしなのよね。一度、見てみたいなあ。大体人間自体、翔瑚しか間近で見たことはないけれど」

「そっか……真面目で昔気質で、でも話のわかる、人情の厚い、尊敬できるばあちゃんだよ。そういえば、人魚の話も肯定してくれたりしたなあ」

「素敵な人なのね」


俺が砂浜へあがってサンダルを手に持つと、アクアは逆に海の方へ入っていった。


「じゃあまた」

「またね」


ざぶり。波が立つ。俺は岩伝いの道を戻る。


人間と人魚は「またね」と言って別れた。

境界はどんどん薄くなっていく。いつか消えてしまえばいいと思う。

はるか水平線では、夏特有の真っ白な入道雲がむくむくむくとそびえていた。






< 145 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop