潮にのってきた彼女
家へ戻ると、ばあちゃんと千歳さんは帰って来ていた。


「翔瑚、おかえり。荷物だけ置いて、あんた。随分早く島へ着いとったんちゃう?」

「うん。乗り換えとかがうまくいったから。千歳さんは?」

「納屋で、農具を修理してくれとる」


やっぱり畑に行っていたらしい。テーブルには瑞々しい収穫物たちがわんさか転がっていた。

ばあちゃんんは収穫した野菜の、いらない葉っぱなどの部分をとって洗う作業をしていたので、テーブルを挟んで木椅子に座り、作業を手伝った。


「どうやった」


トマトのヘタに残った太い茎を園芸ばさみで切りながら、ばあちゃんは言った。


「帰って、よかったよ。でも、もっと早く帰ってればよかったとか、そういうんじゃなくて、今、帰ってよかったと思った」

「そうか」


ばあちゃんは一瞬だけ手を止めて、ちらりと俺を見、すばやく微笑んだ。


「母さんも、ばあちゃんによろしくって。それから、見よう見まねのばあちゃん流で作ったらしい、漬け物もらってきた」

「へえ、珍しいな。倫子が、そんなこと」


俺はナスやヘチマを水をはったボールで洗いながら、兄妹のことや友達と会ったことを話した。
ばあちゃんはおだやかな笑みを浮かべて相槌をうつ。


網戸から入ってくる風が気持ち良かった。
古びたテーブルクロスをあおり、少しだけ潮の香りを残しては畳の間の方へぬけていく。


そういえば、ばあちゃんに真珠の話を聞いたことはなかったな、と気づいた。

口を開こうとして、ふと留まる。
そうする理由は何もないはずなのに。

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