潮にのってきた彼女

+Ⅲ

湧き上がるように、自分の鼓動が聞こえてくる。
かああっと、体全体が熱くなるような感覚がしたかと思うと、熱は波のように引いてゆき、あとには手足の痺れたような感じが残った。


――やっぱり、出会ってしまったんやね

――海の底から来た、あの、

――うつくしい生き物に


「驚いとるな」


はっと気づくと、ばあちゃんは悲しげな表情で俺を見ていた。


「うすうす気づいとったけどねえ。夏休みに入る前あたりから時々、何かにとり憑かれたように、海の方へ恋しい視線を向けて。
おかしなことも言い出すし。まったく、昔のわたしを見ているようやった」

「昔の――」


ばあちゃんにひそんだ、少女の気配。
あれはもしかすると。

俺と同じように、あの生き物に出会ってしまった、昔のばあちゃん――


「人魚はいると思うか、と、翔瑚は言い出したんやったな」


俺が海に落ちて、アクアに助けられた日。
うろこだけを残して消えた彼女に、俺は何とかしてもう一度会いたくて。
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