潮にのってきた彼女
心配そうな顔をした、同年代らしい女の子が俺を覗き込んでいた。
さきほどの声の主なのだろうか。

その子のまとう美しさに、俺は一瞬、息をするのも忘れていた。


大きく開かれた瞳は海とよく似た瑠璃色。
その零れそうな様子と潤みは、深海に眠る宝石を想像させた。

肌は白く、唇は薄く色づき、全てのパーツが美しかった。

この整いようを形成する遺伝子が、この世のものだとは思えないほどに。


「気分、どう? 大丈夫?」


声は同じ質問を投げかけた。
それで自分が固まってしまっていたことに気づき、はっと目を見開いた。


「ここは……」


体を起こしかけると、頭から爪先まで全身を激痛が貫いた。


「痛っ」

「あ、動いちゃだめ。ここは砂浜の上よ。これ、飲んで」


女の子は小さな瓶を持っていた。中には乳白色の液体が入っている。

得体の知れないそれは、なんとも不気味に見えた。
だというのに、彼女の白い手が口元に近づくと、俺は断ることを忘れていた。

液体はするりと喉を通過する。
体中へ波となって広がる。
味を感じる間もなく。

しばらくすると、少し意識が戻って来たように思った。


「どう? 少し、ましになった?」


不思議な瞳の持ち主はそう言って、手の甲で俺の頬に触れた。
彼女の手はひんやりとしていて熱で火照った顔に心地よかった。


「少し……」


呻くように返事をした。
頭痛が治まってくると、体のあちこちの痛みがうずきだした。

つった両足は痺れたままで、落ちた衝撃のせいか後頭部は鈍く痛む。
腕は重く、左肩は動かすこともままならないほどだった。
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