潮にのってきた彼女
容易には、信じられるはずもないことだった。

世代を超えて、同じ血同士は惹かれ合う。

違う世界の住人同士が出会うことだけを考えても、その確率は並大抵のものではない。

それが、繰り返される。
何十年の時を経て、人魚と人間は再び出会った。

同じ血を引く者たち。同じ海で俺たちは出会って惹かれ合って。


それはとんでもなく尊いことのように思えた。信じられないことだったが、あの夏の日に偶然出会ったアクアと俺は、何十年も前から繋がっていたのだ。


「……それは、確かなことなんやな?」


ばあちゃんは厳かな声色で言った。


「彼女から、聞いたことがあった」

「そうか……」


ばあちゃんは、体中から力を抜くように、長く重いため息をついた。


「だから真珠の話も……そうか……孫同士が、出会うとるとはねえ……」


優しい微笑が、ばあちゃんの、しわがたくさんのった顔の上に広がっていった。


信じ難いこの話を、ばあちゃんは疑ってかかりはしなかった。

普通だったらありえないと言って差し支えないような話だ。この広い世界の中で、こんなこと。

ただ単純に、ありえてもおかしくないと思ったわけじゃない。きっと、ばあちゃんは――いや、ばあちゃんも、この話が真実であったらいいと、どこかで願ってしまったのだろうと思う。


「驚いたなあ……でもなんや、頭やなくて心が、話を簡単に受け入れてしもうてるわ。
ほんまはもっと、驚くべきことなんかもしれんけど……わたしたちはもう既に、もっともっと驚くべき存在に出会うとるしなあ」


ばあちゃんは言って、目を細め笑った。腰が、しゃんと伸びている。

両手はきっちりと揃えてひざの上にのせられていた。海と、その向こうの過去を見つめる瞳は、光がこぼれおちそうなくらい輝いていた。


< 156 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop