潮にのってきた彼女
「……でも、それなら話は早いな」


あの日のアクアを思い出す。青い目をした、若い王。崩壊の一途を辿る、深海の王国。それから今、真珠を要求している女王。
そんな、おとぎ話のようなほんとの話。


「彼は、ティートは家系の都合上からやむなく新しい国王になった。本人が望んだことではなかったらしいな。でもその頃に国は、先代の王のふるまいから、破綻寸前というとんでもない状況やった。

それ以来、やっぱりなあ、会える頻度は極端に少なくなっていったわ。
待ち合わせはいつも同じ場所で、わたしは家の手伝いや女学校の間をぬって、日に3回ぐらい通った時期もあったけど、会えるんは2日か3日に一度ぐらいやったなあ」


待ち合わせと聞いて、自分たちのその場所を思い出す。
アクアが見つけたという洞くつ。海とつながった穴が地面にあいた、なんとも都合の良いその場所へ、初めて行った日に覚えた違和感を思い出し、ひらめいたことがあった。


「……ひいらぎ岬」


ばあちゃんの目が即座にこちらを向いた。


「大きな岩の足元にあいた、天井の高い洞くつ」


観念した、というようにばあちゃんは笑い始めた。


「ほんまかいな……もう、何でもありえへんことはないような気がしてきたわ」

「まさか本当に、同じ場所だったんだ」


洞くつの入り口の穴が、不自然なほど綺麗にあいていたことを思い出す。
あまりにおあつらえ向きだったあの場所の歴史には驚く外ないが、そう考えるといろんなことに納得がいきそうだった。

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