潮にのってきた彼女
「洞くつはもともとあったもの?」

「あの大きさはさすがに天然物やわ。入り口を広げたんはティートやったけど。

海面下でへこんだ大岩の真下には海水が入っていたもんで、満潮になると海水面が丁度地面の下あたりまでくることに気付いて、地面に穴ぼこあけた時には驚いたで。
……あの天井は、今でも残っとるんか?」

「貝たちが、ステンドグラスみたいに」

「そうそう。残っとるんか……。知っとるかもわからんけど、彼らは生き物と自由に意思疎通がはかれるらしいんや。あれはティートが、仲のいい海鳥たちに頼んで、貝のうつくしさが好きやと言ったわたしのために、作らせてくれたものなんや」


宝箱のようなあの空間の、神秘的なうつくしさをたたえた様子が思い出される。

天井にしきつめられた貝殻たち。あんなに色とりどりで、大小様々だったことも、海の住人の仕業ということならうなずける。アクアがやっていたように、青い目の国王も海鳥たちと交信して、芸術作品のようなあの場所をつくりあげたのだろう。


「俺たちが会ってるのも、あの場所なんだ。彼女はそこを、住処にしてる。ティート・シェルラインには、お礼を言わなくちゃ」

「ほんまやなあ」


呟いてからまた、話を続けた。


「彼はどんどんとやつれていくようやった。やけども、わたしと会う時にはいつも笑顔で現れた。どれだけ疲れているような日も、決して暗い話をわたしにすることはなかった。
まるで、日々の思い出が、ただうつくしいだけのものとして残ることを望んでいるかのように。

わたしは、彼と会える時間が、もはや多くは残っていないことを悟ったんや。

そして、最後の日は、それにふさわしい前兆もなくあっさりとやってきた」


< 158 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop