潮にのってきた彼女
「そうか……」


瞳がぐっと閉じられる。眉間にひとつ、深い深いしわが刻まれた。


「仕方のない、ことやな。そうわりきらんとこればっかりは、どうしようも……ないわ」


とてもそんな風には見えなかった。
けれど、苦しげな表情から目を逸らして続ける。


「だから、その子孫である彼女や彼女の兄弟たちに、真珠を見つけて献上することが命ぜられたらしい。
どこからの情報なのか、真珠があるのはこの島だとにらまれていて……俺は彼女に、協力して欲しいと頼まれたんだ」


少し間をおいて、なるほどな、とばあちゃんは呟いた。
真珠の入った箱を少し撫で、俺との間に置いて、ふたの上に手をのせた。


「彼女も代償の話を知っているようやけど、もしも真珠が見つかったら、どないするつもりやったんや?」

「見つかってから2人で考えようと、俺が言った」


無責任に聞こえた海鳥の鳴き声を思い出す。


「どんなものが傷ついても、それを、悲しいと思えるような子だから」

「そうか。さすが、あの人と同じ血をもつ人魚や」


にっこりと、ばあちゃんは目を細めて微笑む。なぜか、自分がほめられたかのように感じて、顔があつくなった。


「翔瑚は、この先のことを考えたことがあったか?」

「…………何も、わからなかった……」


正直に言ってしまえば、わかりたくなかった、だ。

この先のこと。いつまでも一緒にいられるはずがないこと。

明日には会えなくなるかもしれない。
不安ばかりはいくらでも思いついてしまう。
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