潮にのってきた彼女
「海の向こうって考えたら、まるで異国みたいに思うけど、所詮同じ国なんだよな。
地球規模で考えたら、すぐ傍にあるような場所なんだ。
なのに、居心地がいいとかそういうことだけで、この広くない世界しか知らずにいるのって、もったいないような気がしてきたんだよ」


この間、帰省した時のことを考えた。

海とか山とか田んぼとかコンクリートとか、それらをぐんぐん置き去りにして進んだ列車。

随分長い間運ばれていた気がしていたけれど、確かに地球の途方もない大きさを考えれば、取るに足らないようなものだったかもしれない。


「めちゃくちゃ広い視野だな」

「だろ」


眼前に広がる大海原は、限りなく広がっている。
水平線の向こう、ぼやけて見えない彼方にまで、途方もなく広がっている。


「それから、はっきりと決心できたのは、さくのおかげだ。まさか、さくが翔瑚に言うとは思ってなかった。

翔瑚と出会ってから、あれでも口数は増えてたんだ。でも、さくにそこまでの勇気があるなんて思ってなかった。小さい頃から見ていて……成長したんだなって、感じた。

それから、朔也は前より大人になった。
宿題はしないし鈍いけど、翔瑚にクラスで一番に声をかけて、馴染めるようにいろいろ周りに働きかけてたのは朔也だった。

夏帆ちゃんは言うまでもないよな。みんな、翔瑚と出会って成長してるんだ」


慧は目を細めて言った。

自分が、都会からこの島へ突如やってきた自分が、そんな風に島の人々と関われているなんて知らなかった。

朔也も朔乃も夏帆も慧も、自分がここに来た時から今まで、それまでと比べるものがないものだから、大して変わったようには見えていなかった。でも、少しずつ変わっていた。

慧が教えてくれたように、俺が関わることで変わったことがあるなら、周りのおかげで俺が変われたことだって、当然あるはずだった。
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