潮にのってきた彼女
「そんな時、学校で友達ができた。1人できるとはやくて、今ではクラス全員と友達だと言えます。

最初は自分のことを気にかけてくれているひとがいたというだけで驚きでした。

人と関わり、話すようになって、自然と悩む時間が減って楽になった。
ゆっくり、少しずつ広い範囲で物事を考えられるようになった。

その時考えていたのが、自分の存在価値みたいなものでした」

「わかるよ」


ぽつりと牧村さんの口から言葉がこぼれる。


「今まで自分を一番特徴づけて、支えてくれていたはずだったものが不意に無くなって。
よるべない身が不安になり、代わりを見つけたくとも、そう簡単には見つからない……」


そうなんだね、と向けられた視線に肯いて応える。


「そんな時、思いもよらない形での出会いがありました」


たった1ヶ月ほど前の出来事だった。

あの日俺を海底から救い出してくれた彼女は、そのあともずっと、俺を助け続けてくれている。


「たびたび会うようになって、話をすることが増えて。
ふとした機会に、自分のことを全て話したことがありました。

驚いたことに、会って十数日の相手は話を聞くと、『どこにいても翔瑚は翔瑚だ』と事もなげに言ってくれたんです。

はたから見れば、たったそれだけのことが何なんだと思うかもしれませんが、それは確かにその時自分が求めていた言葉でした。


ひとと出会って、言葉を交わして。
島に来て、少し成長できたのは、ただそれだけのことのおかげのような気がしています」
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