潮にのってきた彼女
「思い立ったら即行動」

「え?」


牧村さんは初めのように腰に手をあてがい、よっこらしょと言って立ち上がった。


「一見冷静な静さんにも、そういうところがあったよ。今から行こうと、思っているんだろう?」

「……はい」


野球帽をかぶりなおして微笑み、牧村さんは言った。


「行っておいで、なんて、言える立場ではないか。君の誠意が伝わることを祈るよ。

君の方が早ければ、静さんに伝えておいてくれ。今日か明日には、寄らせてもらうよ」

「わかりました――ありがとうございました」

「こちらこそ。話ができて、よかったよ。ありがとう。それでは、また」


汗を拭い、ゆっくりと立ち去る姿を見送る。

言うべき言葉があったことに気付いて、その場で大声を張った。


「いつか、ぜひ!」


驚いたように振り返る。


「もしまた、グラウンドで出会えたら……その時は、ぜひ、選手として!」


少しだけ柔らかくなった日差しと、島を渡る風の向こうで、彼は少年のような笑顔を見せた。



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