潮にのってきた彼女
洞くつの前で名前を呼ぶと、いつになく大きな声が出た。

しばらく応答がなくて心拍数だけがあがっていく。
いつもの顔が入り口から出て来た時には、砂浜に膝をつきそうなほど安心した。


「久しぶり……? でもないかなあ。どうしたの? そんなに慌てて」

「……一瞬、アクアともう会えなくなったら、どうしようと思って」


不意を突かれたようにアクアは黙った。口をついて出た言葉に気づいて、俺はとりなすように言った。


「いや、ふと、思っただけで……。でも、うん。会えてよかった」

「そうだね」


笑顔で答えてくれて、ほっとする。
アクアは視線で「どっち?」問いかけてきた。


「外に」

「わかった」


満ち潮でいつもより狭い砂浜に並んで座る。
日は少しずつ西に傾いていた。


「それ、何?」


いつものように髪を絞りながらアクアが尋ねたのは、俺の持っている箱のことだった。


「アクアが」


反応を直視できそうもなく、あらかじめ目を逸らしてから言った。


「ずっと、探してたものが入ってる」


箱を持つ両手が震える。

アクアは何も言わなかった。言えなかったのかもしれない。

沈黙の間には、寄せて返す波の音だけがいつもよりよく響いた。


「見せて」


か細い声にうなずき、ふたを持ち上げる。

7つの真珠のうち真ん中の大粒が放つ輝きで箱の中が満ちたその様子に、アクアは目を見張った。


「これ、が――」


白い指が震えながら口元を覆う。


「フルフィルパール……」


ふたをどけると、美しく、しかし恐ろしい輝きが、彼女をとりまくように広がった。

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