潮にのってきた彼女
+Ⅱ
「ただいま」
たてつけの悪い網戸を少し浮かせて閉める。
「お帰り、翔瑚」
ばあちゃんは台所で夕飯の支度をしていた。
家の中に味噌と醤油の匂いがする。
俺はあれからずっと浜辺にいて、水平線を眺め、鳥とたわむれ、うろこを太陽にかざしていた。
結局、待ち続けた出来事が起こることはなかったけれど。
土間で靴を脱いでいると、奥の部屋のふすまから千歳さんが顔をのぞかせた。
「今日なあ、夏蜜柑ようさんもろたよ。今度なんかおすそ分けせななあ」
「へえ……」
「それからな、ながじいが今度、真珠の養殖見においでえて。……翔瑚くん? どないかしたん?」
「え? いや、別に」
背を向け、手の中でうろこを転がしていたので生返事になっていた。
千歳さんの言葉に、ばあちゃんも俺を見る。
「真珠、今度友達連れて見に行く」
「朔弥くんらか? あの子らいっつもお世話になっとるなあ。今度うちにも連れておいで」
「……うん」
部屋への階段をのぼりかけ、足を止めた。
右手を握る。
打ち明けてしまおうか、という考えが、頭を過ぎった。
いや、信じてもらいえるはずがない。
海にばかり執着しすぎだと言われるのがおちだ。
でも。
何かが、わかったら。
「……なあ、ばあちゃん」
慎重に言葉を選び、口を開いた。
たてつけの悪い網戸を少し浮かせて閉める。
「お帰り、翔瑚」
ばあちゃんは台所で夕飯の支度をしていた。
家の中に味噌と醤油の匂いがする。
俺はあれからずっと浜辺にいて、水平線を眺め、鳥とたわむれ、うろこを太陽にかざしていた。
結局、待ち続けた出来事が起こることはなかったけれど。
土間で靴を脱いでいると、奥の部屋のふすまから千歳さんが顔をのぞかせた。
「今日なあ、夏蜜柑ようさんもろたよ。今度なんかおすそ分けせななあ」
「へえ……」
「それからな、ながじいが今度、真珠の養殖見においでえて。……翔瑚くん? どないかしたん?」
「え? いや、別に」
背を向け、手の中でうろこを転がしていたので生返事になっていた。
千歳さんの言葉に、ばあちゃんも俺を見る。
「真珠、今度友達連れて見に行く」
「朔弥くんらか? あの子らいっつもお世話になっとるなあ。今度うちにも連れておいで」
「……うん」
部屋への階段をのぼりかけ、足を止めた。
右手を握る。
打ち明けてしまおうか、という考えが、頭を過ぎった。
いや、信じてもらいえるはずがない。
海にばかり執着しすぎだと言われるのがおちだ。
でも。
何かが、わかったら。
「……なあ、ばあちゃん」
慎重に言葉を選び、口を開いた。