潮にのってきた彼女
「アクア、今考えてること、言って」


彼女は目を閉じ、震える唇を開く。


「翔瑚の考えていることがわかっちゃうから、悲しい」


鳩が豆鉄砲、みたいな顔をしていたんだと思う。アクアは俺を見て笑った。


「わかっちゃうんだよ。好きだから」

「本当に?」

「消してって言うでしょ、わたしの魂のために」

「……わかっちゃうんだね」


アクアは笑顔を作ったけれど、全然笑えていなかった。こんなに泣きそうな笑顔は初めてだ。


迷う余地なんて俺にはなかった。
色々と覚悟はしていた。おとぎ話にだって、そういう仕掛けはよくある話なのだ。

ましてやこの現実世界。俺はまさに物語の中にしか知らなかった世界に、偶然触れることができたわけだがアクアの言うように、こんな例は以前にも多くあったのだろう。

その上で人間たちの認識のなさを見れば、その掟のペナルティが、きっととてつもなく重いものなのだろうと考えることぐらいはできる。


俺にはわからない。陸で生きる俺には。
海の脅威も知らないし、孤独というものも、知ってるうちに入らない。


だからこそ、アクアにそんなものを、自分と出会ったせいで負わせてしまうことなんてできるはずはなかった。


「当たってた?」

「うん。記憶をなくしたくない、なんて言えないよ、俺には。
200年の孤独だなんて、俺には想像もつかないけど……」


その時、アクアの表情が傷ついたように歪んで見えたので、思わず口をつぐんだ。

アクアは目を伏せる。


「そっか。でもね、翔瑚はわたしが、どれだけ翔瑚のこと好きか知らないから言えるんだよ」



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