潮にのってきた彼女
「ありがとう」


唐突な言葉。でももうきっと、迷ってる時間はない。


「翔瑚?」

「出会ってよかった。アクアに出会えて、ここへ来た意味がすごく深くなった。
そのことが本当に大きいから、もし俺たちが同じ生き物なら、とか、今まではあんまり思ったことがなかった。

だけど今は、正直そう思わずにはいられない」

「それは、わたしも同じ」


砂の上で白い手を握った。


「でも、これはどうにもならないことだから……。
だからやっぱり、俺の記憶を消して欲しい」

「どういうこと?」


瞳が揺れて、不安の色が見えた。


「だってそうしなきゃ、アクアは200年間海に還れない。

でも、記憶を消したら……2人とも海に還りさえすれば、すぐに会えるよ」


単純に、気休めでしかなかった。結局今はどうしたって離れるしかないんだ。

海に還る話をしてくれたアクアが、少しでもそれで気を楽にしてくれたら、と、祈るように思っていた。


アクアは手を握り返しながら、諦めたような笑顔を浮かべた。


「悲しいけど、翔瑚の言うことが正しいね」


正しくて、でも不確かでしょうがないことだ。
それを信じ続けることは辛いのかもしれないけど、でも、それしかできない。

それに耐えられる要素があるとしたら、1人じゃないということだけだ。


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