潮にのってきた彼女
「他にないかな」

「……あれば、いいんだけどな」

「翔瑚はもう思いつかない? とっぴょうしもないのでもいいけど」

「アクアをお風呂かプールに浮かべて、一生生活する」

「おふろ?」

「それか、慧に生物の勉強をしてもらって、尾ひれを2本の足にする薬ができるまで待つ」

「……本当に出てくるんだね」


とっぴょうしもないの。そんな言葉どこで覚えたんだろう、と思って、確実に俺からだよな、と意味のない発見をする。

ついでに言えば、お風呂案にだって意味なんかない。
そんな狭いところでアクアが暮らせるわけはないし、慧には慧の人生があるし、俺には俺の限界がわかっている。

第一、女王がそんなに呑気なわけがない。


「アクアは?」


思いつかない? アクアは肩をすくめてふっとまぶたをおろした。


「結局、わたしはどっちにしろ孤独。年数の違いだけで」

「でも生きていれば、海には仲間が」

「翔瑚はいないよ」


当たり前のことを当たり前でない口調で言われて、そこで初めて自分はずるいなと思った。


「……忘れないように、頑張るよ」

「頑張って欲しいよ。でも、なぜだかわたしたちの国の薬、人間にはすごくよく効いちゃうのよ」


ふと、初めて会った時のことを思い出す。あの時飲まされた、あれは、確かにたちどころに効力を発揮していた。


「でも、頑張るから。綺麗さっぱり忘れちゃうなんてことはないように。

せめて、海への執着だけでも残して、俺も一緒に苦しむよ」

「心強いね」

「うん。正体不明の感情にとらわれて、焦がれ死にするよ、俺は」


ふふ、と少しだけアクアは笑った。
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