潮にのってきた彼女
繋いだ手に力がこもった。


「きっと、決心が鈍ってしまうから」


アクア、と名前を呼んで、左手で細い肩を抱き寄せる。そのままキスをした。

顔を離して視線が合うと、2人とも半分照れてて、半分泣いていた。

そのことにまた泣きそうになっていると、アクアが右手をまわしてきて、顔を耳元に近づけて、ささやいた。


「もう、遮らないよね」


髪も肌も触れて、近づく。


「わたし、人間が好き。翔瑚が好き。

わたしのことを忘れてしまっても、この気持ちだけ、覚えておいて――」


アクアの胸元で、前にあげたハートの形をしたバロック真珠が光っていた。


しばらく、風に吹かれていたあと、繋いでいた手をどちらからともなく離す。


「明日」

「明日ね」


一言ずつだけ残して、離れる。

夕日で砂浜に映った1つの影が、2つに別れて別々の方を向く。


足元にせまっていた海に足で触れる。温かい。夕凪の水面は赤く輝いている。

岩づたいの道の方へ少し進んで振り返ると、アクアはもういなかった。箱もなかった。


幻みたいに、一瞬でいなくなっていた。





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