潮にのってきた彼女
「あのさ、この世に…………人魚って、いんのかな……?」
「人魚……?」
ばあちゃんと千歳さんは怪訝そうに俺を見た。
「人魚!? 急にどうしたんよ、翔瑚くん」
「いや、なんとなく思って」
「まさかあ、おらんやろなあ。半分が人間で、半分が魚なんて……」
「おるよ」
さらりと言って、ばあちゃんはまた流しの方に向き直った。
「本当に!?」
「人魚やろ。おるよ。海の底深くに住んどって、海の上に来ることは滅多にないのんや」
人魚やろ。
おるよ。
ばあちゃんは俺の求めていた答えを、当たり前のことのように言った。
「そんなん初めて聞いたわ」
「人魚は、人間に危害をもたらすこともない。ひっそりと生きてる。ここらじゃ昔から人魚はおるて言われてるよ」
「へーえ」
千歳さんは口を開け放し、大層驚いた様子でばあちゃんを見ていた。
淡々と言葉を紡いでいたばあちゃんは、一瞬料理の手を止めた。包丁の音が途切れる。少し、視線を上げたようだった。
何だかおかしい。
ここらじゃ昔から言われてる。なのに千歳さんが知らないなんて、ありえるのだろうか。
ばあちゃんの丸まった背筋が、心なしかいつもより伸びていた。
向こうを向いたばあちゃんは、遠い目をしている気がした。
やっぱり、何だかおかしい気がする。
「へえー……」
とりあえず、俺は妙に感じた素振りは見せないように、自分の部屋への階段をのぼった。
台所からは、再び包丁の音が聞こえてきていた。
その音は不気味なほど規則正しく、やはり淡々と一定のリズムで聞こえてくるのだった。
「人魚……?」
ばあちゃんと千歳さんは怪訝そうに俺を見た。
「人魚!? 急にどうしたんよ、翔瑚くん」
「いや、なんとなく思って」
「まさかあ、おらんやろなあ。半分が人間で、半分が魚なんて……」
「おるよ」
さらりと言って、ばあちゃんはまた流しの方に向き直った。
「本当に!?」
「人魚やろ。おるよ。海の底深くに住んどって、海の上に来ることは滅多にないのんや」
人魚やろ。
おるよ。
ばあちゃんは俺の求めていた答えを、当たり前のことのように言った。
「そんなん初めて聞いたわ」
「人魚は、人間に危害をもたらすこともない。ひっそりと生きてる。ここらじゃ昔から人魚はおるて言われてるよ」
「へーえ」
千歳さんは口を開け放し、大層驚いた様子でばあちゃんを見ていた。
淡々と言葉を紡いでいたばあちゃんは、一瞬料理の手を止めた。包丁の音が途切れる。少し、視線を上げたようだった。
何だかおかしい。
ここらじゃ昔から言われてる。なのに千歳さんが知らないなんて、ありえるのだろうか。
ばあちゃんの丸まった背筋が、心なしかいつもより伸びていた。
向こうを向いたばあちゃんは、遠い目をしている気がした。
やっぱり、何だかおかしい気がする。
「へえー……」
とりあえず、俺は妙に感じた素振りは見せないように、自分の部屋への階段をのぼった。
台所からは、再び包丁の音が聞こえてきていた。
その音は不気味なほど規則正しく、やはり淡々と一定のリズムで聞こえてくるのだった。