潮にのってきた彼女
封筒にはその手紙と、最初に会った時にもらったウロコを入れておいた。
間違って記憶を取り戻してしまって、そのせいで彼女の運命が変わってしまったら、と思うと、唯一の証すら手元に残しておくことはできない。


することがなくなったので、家を出た。アクアに助けてもらった水色のサンダル。歩いてひいらぎ岬の方へ向かう。


浜辺におりて海を右手に歩いていく。水平線よりもっと遠くから寄せてくる波が、近くで砕けて散る。

足元を見ながら歩いていると、満ち潮のようだった。そういえば、潮の満ち引きは月の引力によるものが大きいらしい。

島民にとって身近すぎる存在である海は、本土とも、異国とも、宇宙とも、未知の世界とも繋がっている。


あの日に登った大岩も通り過ぎた。帰りはこれを、どんな気分で見ながら帰るんだろう。


ぶらぶらと、夏帆と２人で来た時と同じぐらいの時間をかけて岬近くまで歩いてきた。

それでも太陽高度はまだ低い。足を濡らしながら岩場を進む。


何も知らない人間の生活からは死角となる場所に洞くつは見える。

ティート・シェルラインが見つけ、貝たちの神秘的な美しさで飾った。

そして子孫が受け継ぎ、同じように利用して、同じような秘密を、同じいきものと共有した場所。


白い浜辺にアクアはいなかった。
明日、とだけ言い合って、いつ会おうとも特に決めはしなかった。でも、アクアも同じことを考えているはずだった。


洞くつを覗いても、姿はない。一抹の不安がこみ上げかけた時、外の海面にシルエットが浮かんだ。
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