潮にのってきた彼女
液体はするりと喉をおりていった。
うっすらと塩気があるような気がする。

ビンの中から液体がなくなった時に、効果は現れ始めた。


「っ…………!」


頭を激痛が襲った。体中を揺さぶるように、痛みが暴れまわる。

手元を離れたビンと共に上半身が砂の上に倒れる。意識が遠のく。

海に落ちた時に似ていた。
やがて、痛みを感じなくなる。

巨大な力に、身体の自由を、奪われる、ような、感覚……


「ごめんね」


耳元で囁かれた。

頬に冷たくて細いものの感触。


「嘘をついて、ごめんなさい」


……嘘?

何のことか、と、尋ねることはできなかった。

涙が顔の上に落ちてくる。

空を背景に、アクアが泣いている。


「わたしには、できないよ……」


アクアは、涙を拭った。頬から指を離し、体をよじる。

俺は、首だけを動かしてアクアを追う。


意識がもたない。海に、引きずり込まれる……


その時、斜め後ろから見たアクアの手元が光った。


いや

光に包まれた。


アクアは箱を開けたのだ。

真珠の入った箱を。


アクアがその中身を、どうしようとしているのか、それすら考えきれず、俺の意識は途切れた。




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