潮にのってきた彼女
――――

目を覚ました時、最初に見えたのは空だった。

砂浜で寝転んでいる。

意識も感覚もはっきりしていた。あれからどれぐらいこうしていたのだろう。あれから……。


上半身をおこす。普通ならば当然のことであるはずの事実を、俺は受け入れられずにいた。

覚えている。

自分がここにいる理由も、意識を失った理由も。

記憶があるということが何を意味するのかということも。


心拍数が上がっていくのを感じていると、聞きなれた声がうしろから聞こえた。


「翔瑚」


弾かれるように立ちあがって振り向く。

アクアがいた。

陸に。


「なんで……」

「嘘をついたの」


陸にアクアが立っている。下半身は見えない。鎖骨のあたりから下を1枚の白い大きな布が覆っている。

広い面積を占めていたエメラルド色がなくなって、印象が変わった、ように思った。
でもそうではなかった。アクアの存在自体が薄くなっていた。体が透けていた。

意識がとぶ直前の映像が蘇る。
俺に背を向けたアクアが手を伸ばしたのは。


「真珠は……」

「鳥たちに預けたわ。……7つ目も、もう、輝いてない」

「アクアが、願いを?」

「ええ」

「どうして…………! 一体、何を」


アクアは首を傾げて笑って、両手を組み合わせて祈るポーズをした。


「翔瑚が生まれ変わったら、わたしの魂も一緒に生まれ変われますように」


朝凪で風も吹いていないのにアクアの髪や白い布が揺れる。

海をたゆたうように。
今にも消えてしまいそうな幻のように。

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