潮にのってきた彼女
「祖父の思いがわかってしまったの。

祖父は静さんの記憶を残した。彼は200年の孤独の方を選んだ。

きっと祖父は、静さんとの繋がりをなくしたくなかったんだと思う。


そのために記憶を残したまま真珠を預けて……そのおかげでわたしたちは出会えた。
祖父はわたしたちを通して、静さんに寄り添えていると思う。

だからわたしは翔瑚の記憶を消すわけにはいかないわ。
わたしも繋がっていたいから」

「そんな……」


アクアが少し近づいた。やっぱり、透けている。髪の色もほとんど金色に近くて、白い布に覆われた体は向こう側が見えそうなぐらいだった。

でも、瞳の色だけが変わらない。
同じ青さを保っている。


「記憶をなくすわけにはいかなくて、それに、まだやることもある。

恐ろしい真珠のこと。わたしたちの国はあれにおどらされて、わたしの祖先もあれのためにたくさんのものを失った。
そんな真珠を、どうにかしてしまわなくちゃいけない。


だけど真珠を渡さなければ、結局わたしたち子孫はみんな罰を受ける。
それなら、あの7つ真珠をただの真珠にしてから渡してしまえば女王も諦めるはずよ。

そうすることが、そんな真珠を家宝に持つシェルライン家の子孫の義務だと思うから」

「……それは、アクアじゃなくても」

「だって、願いがひとつ、叶うのよ」


だけどそれは、重い代償引き換えだ。

その代償に見合う願いなんてあるはずがないのに。


「そんな顔しないで」


アクアが近づいてきて、すっと手を差し伸べた。

手の形があるところを握ると、肌の感触より温かみがはっきり感じられた。


静かな早朝の海辺に、確かにある温度。

確かな存在。

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