潮にのってきた彼女
「自分ではどうにもならない願いをわたしは持っているし、願い事をすることが義務を果たすのよ。

そのためには代償が必要だったけれど、それすらも願いによって救われるの。


たくさん考えたよ、どんな風に願えばいいんだろうって。

人間になりたい、とかも考えたんだけどね。でももしかしたら、今度は翔瑚が海に生まれるかもしれないもの。だから、出会えるチャンスだけ与えてもらおうと思って。

だから、同じ時に生まれ変わらせて欲しい、って願ったの」


温度だけに存在を頼っているような姿のアクアは、それでも笑っていた。

受け入れたくないことだった。だけど決断は俺の感情よりも前に下されている。

アクアが自分だけを犠牲にして。


だからもう、だだをこねたりするべきじゃないところなんだとわかっていた。

逃げるべきところじゃない。決断を受け入れて、抱きしめるべきだ。


「翔瑚と一緒に生まれ変わる。2人ともどんな風に生まれるのかわからないけれど。
人間かもしれない。人魚かもしれない。鳥かもしれない。風かもしれない。

でもきっと、どこかで出会える気がするの。

わたしたちの祖父と祖母が願ったのと同じ。

祈りの力は強くなって、ずっとずっと続いていくから」


その時、浜辺に一筋風が吹いた。

アクアに2度目に会った日、風鈴が鳴ったことをふと思い出す。

あれを揺らしたのは、この風だったんじゃないだろうか。
巡り巡って、ずっと寄り添っていたのだとしたら。


風が吹くほどに、アクアの熱がなくなってしまうような気がした。


「……だけどね、翔瑚。
将来翔瑚が、生きることを辛いと思った時に、そのことを逃げ道にしたら、絶対だめだよ」
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