潮にのってきた彼女
「翔瑚は精一杯生きて。好きなことをして、楽しんで、全力で生きて。

そしてそれが終わりそうになった時にやっと、わたしのことを思い出してくれたらいい。

わたしは孤独なんかじゃないから。

海から一緒に再出発できると思って、いつまででも待ってるよ」

「……わかった」


アクアの温度を抱きしめる。
決断ごと、全部、抱きしめて、溶かして一体になるつもりで。

潮にのってきた彼女が、1人で下した、俺たちにとって最良でなければならない決断ごと、全部。


「アクアの言う通りに、俺は、精一杯生きる。
この島に来た意味も、ここでの出会いの意味も、忘れないように。

……そして、なるべく、200年より先に死ぬよ」


冗談みたいな口調で言ったけれど、真剣な話だ。
このことも含めて、彼女はさっきの決断を下したのだから。


「そうだよ、200年も翔瑚が生きたら、ちょっと意味が減っちゃうんだよ」

「そんなに生きられないよ。大丈夫」


笑い合う。

――たぶんあと100年も生きられないよ。必死に必死に生きるんだから。細々と長らえるつもりはないからね。


やっと、お互いにちゃんと笑えた気がした。


「……会えてよかったって言ってくれた時と、また会いたいって言ってくれた時が、わたしたぶん、生きててよかったって一番思えたの」


そう言ったことはちゃんと覚えていた。アクアに対して、そんなこと言ったっけ、なんてあとから思うことはそんなになかった。


「わたしと会えて変われたって言ってくれた。わたしの生きた意味を、翔瑚が教えてくれた。

だから、変わることができた翔瑚がこれから一生懸命生きていってくれることが、わたしの生きた意味を大きくしていってくれることなんだとも思って欲しい。

そして、また会いたいって言ってくれたから、今後はわたしが生まれ変わる意味まで翔瑚はつくってくれたんだよ。

だから言ったの。わたしも会いたいって。それで、笑えたんだよ」
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