潮にのってきた彼女
そう、俺はあさはかだった。
とてもとても大事な人が、笑顔に隠した言葉と思いを、知らないままに別れてしまうところだったのだ。


「お互いの、生まれ変わる意味を、つくれたんだ」

「そう。そういうことよ」

「じゃあきっと、会えるよな」

「会えるよ」

「命なんて儚いから、もしかしたら明日死ぬかもしれない。50年後に死ぬかもしれない。
それから生まれ変わるまでの時間で、200年を超えるかもしれない。それでも」

「うん」

「そしたら生まれ変わるより先に、海で会えるもんな」

「そうだよ」


また、風が吹く。さっきよりも強く。
温度が失われていく。


「……風、に」


アクアが、ごくごく小さな声で言う。


「からだを、奪い取られてるみたい」

「……というより……」


アクア自身も気づき始めていた。俺たちをとりまく風は、だんだん強く、温かみを増している。


「風に、なってる……」


どちらが言ったのかわからなかった。ただその音が聞こえた時、腕の中の温度がほとんどなくなったのがわかった。


「風は、翔瑚のはずだったのにね」


アクアは笑って、そんなことを言う。


「何年後かには、翔瑚が海で、わたしが風になっちゃうね」

「……どっちでも、いいよ」


最後は海だよ。

涙声になってしまった。


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