潮にのってきた彼女
「ただひとつわたしが悔やむことは、あんたと別れる時に、なにひとつ言いたかったことを伝えられんかったことや。
楽しかった日々のことも、別れの辛さも。
言葉少なにも、ある程度のことはわかりあえてたと思ってる。
それでも突然の悲しみと、希望の無さに、伝えきれずにいたことは、たくさん、あった……。
二度と再び会えることはないと、伝える機会は来ないのやと、ちゃんと思っとったのになあ。
やけど、やけどや」
女性は眉根を顰めながらも、うっすらと笑顔を浮かべた。何かを堪えるように。
やがてその堪えていた何かが両の瞳から溢れだすと、再び口を開いた。
「わたしたちの孫が、血が、作ってくれた。
また今度、の約束を作ってくれたんやで。
別れ際にもさよならだけは言わんかったそうや。
そのためにどれだけ強い心が必要か……わたしたちには、痛い程わかる――」
涙を拭って立ちあがった女性に、温かな風が吹き付けた。
きらり、とその中に小さな光が1つ瞬く。
「わたしも、あなたにまた会いたい」
風が、頬を、髪を、体を包み込むように撫でていく。
「また、いつか」
そう言い残し、女性はくるりときびすを返した。
――今はまだ、わたしの生活を。あなたと出会ったこの島で、あなたの瞳の色をした海に囲まれて、死ぬまで、この島で。
ゆるゆると風は女性から離れ、方向を変え、孤独の旅に戻って行く。
また、いつか。
その大切なひと言を守るように、その時が来るまで、ずっとずっと守るように、海はいつまでも輝いていた。
Fin.
楽しかった日々のことも、別れの辛さも。
言葉少なにも、ある程度のことはわかりあえてたと思ってる。
それでも突然の悲しみと、希望の無さに、伝えきれずにいたことは、たくさん、あった……。
二度と再び会えることはないと、伝える機会は来ないのやと、ちゃんと思っとったのになあ。
やけど、やけどや」
女性は眉根を顰めながらも、うっすらと笑顔を浮かべた。何かを堪えるように。
やがてその堪えていた何かが両の瞳から溢れだすと、再び口を開いた。
「わたしたちの孫が、血が、作ってくれた。
また今度、の約束を作ってくれたんやで。
別れ際にもさよならだけは言わんかったそうや。
そのためにどれだけ強い心が必要か……わたしたちには、痛い程わかる――」
涙を拭って立ちあがった女性に、温かな風が吹き付けた。
きらり、とその中に小さな光が1つ瞬く。
「わたしも、あなたにまた会いたい」
風が、頬を、髪を、体を包み込むように撫でていく。
「また、いつか」
そう言い残し、女性はくるりときびすを返した。
――今はまだ、わたしの生活を。あなたと出会ったこの島で、あなたの瞳の色をした海に囲まれて、死ぬまで、この島で。
ゆるゆると風は女性から離れ、方向を変え、孤独の旅に戻って行く。
また、いつか。
その大切なひと言を守るように、その時が来るまで、ずっとずっと守るように、海はいつまでも輝いていた。
Fin.