潮にのってきた彼女
門を出た途端、道路の凹凸に足をとられ危うくつんのめったが、なんとか持ちこたえた。


「……げ」


大きく息をつき足元を見ると、左右違った色のサンダルを履いていた。
そういえば、水色のサンダルは片方が潮風に飛ばされたのだった。

いくら急いでいたからといって、これはあまりにもまぬけだ。
肩で息をしながら苦笑いを浮かべる。


ある程度呼吸が整ったところで海を向き、部屋の窓から見えた場所を探す。
太陽の昇ってくる方角へ向かえばいいのだと気づき、走り出した。


湾曲した海岸線をひた走る。

眠気も、砂にまみれた足元も、何一つ気にならなかった。

太陽を見ながら走るだけだ。




岩だなに遮られていた視界が開け、太陽の光が目に刺さる。

白い光に負けじと目を凝らすと、俺が昨日落ちた大岩のあたりにあの影が見えた。

衝動が抑えられない。

影になるべく近づくため、波止場の上を走った。


青に囲まれた白いコンクリート。
それはただひとつの明るい道に見えた。


いくつもある段差のうち一番下の段に飛び降り、身を乗り出す。

海面は静まり返っていた。
のんびりと揺れ動く波が、俺の焦燥を一層強める。

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