潮にのってきた彼女
何の現れる気配もない海面を見つめ続けていた。

背中を冷たい汗が伝う。
単調な海面に変化が現れてくれることを祈る。


……もう、遅かったのだろうか。


ぐっと唇を噛み締めた。


しぼむ期待に反比例し、不安は増大していった。
今にも押しつぶされてしまいそうだ。


その時、何の前触れもなく、すぐ近くに水しぶきがあがった。


突き破られた薄い氷のようにしぶきは宙を舞う。
細かな欠片は白い光を跳ね返し、輝きを見せたあとは散り散りに降り注ぐ。

きらめきながら、小さな欠片たちは元の場所へと戻っていった。


しぶきは、緊張がピークに達していた俺の頭上に降ってきた。

大粒のしずくが終わり、潮水の霧雨が降る。
薄い水のベールに、包み込まれたようだった。


「うわっ……」


反射的につぶった目を開くと、しずくの嵐は終わっていた。

そして、望んだ通りに変化の現れた海面に見えたのは


      波打つ亜麻色と
     零れそうな瑠璃色とで


手を伸ばせば届きそうな場所に、思い描き続けた顔が驚きの表情を浮かべていた。
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