潮にのってきた彼女
群れは、太陽を目指して飛んで行った。
最後に小さな赤ちゃんカモメが、可愛らしい鳴き声と共に飛び去る。



彼女は肩まで海水に沈めていた。

やはり赤ちゃんカモメに目を向けていて、小さな姿が見えなくなった時、俺たちは同時にお互いを見た。


ばっちりと目が合う。
今度は彼女がすぐに微笑みを浮かべた。


「また、会えたね」


彼女が自然に口を開いた途端、俺の中で張りつめていた緊張の糸が、張りを徐々に弛め出した。


あの声だ。気絶していた俺が目覚めて最初に聞いた声。

洗練された音楽のように雑味が無く、まっすぐな音を発する声。



肩肘を緩め、長く息を吐き出す。

身をかがめると、彼女はすいっと移動して、俺との距離を半分ぐらいに縮めた。

俺の口からもまた自然と言葉が出てきた。


「よかった、会えて……」


本心そのままの、言葉だった。
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