潮にのってきた彼女
俺はコンクリートの上に座り込み、海の方へ足を投げ出した。

彼女はおずおずと近寄って俺をちらりと見上げてから、すぐ隣に両腕を預けた。


「……昨日、見た、よね?」

「うん」

「驚かせて、ごめんなさい」

「いや……そりゃ、驚いたけど……」


彼女はすっと視線を逸らし、太陽の方を見つめた。


「……でも、驚いただけ。今は、とにかく感謝してるよ。ありがとう」

「……ううん」


彼女は嬉しそうに言って、また俺の方へ顔を向け微笑んだ。


「助かって、よかったわ。水の中じゃ、呼吸ができないのよね。……人間、は」

「うん。本当に、ありがとう」

「元気になってよかった」


照れたように微笑んだ彼女の頬が、少しだけ紅潮した。


俺は宙ぶらりんの足で海水を蹴り上げた。

朝であるせいか海水は冷たく、白い光で一層透き通って見えた。


「あ!」


彼女がいきなり叫んだ。


「あの、えっと、それ……何て呼ばれてるんだっけ」


彼女は、俺が履いているちぐはぐなサンダルを指して言った。
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