潮にのってきた彼女
青の世界が広がった。

海の青、空の青、お互いに映る青、双方の溶け合った青。
それぞれの青には濃淡がある。
個性的な青の一族の総出演。

一枚の景色に膨大な数の青色が映し出された瞬間だった。


「すごい……」


ぽろりと感嘆の言葉を零していた。

べったりと顔を窓にはりつける。
いつまででもその景色を見ていられそうだった。
いつまでも青色に目を奪われていたかった。


ためらうことなく、錆び付いた窓を力任せに開けた。
閉鎖された車内の空気と外気が交換される。
遠く海を見ていた俺は潮の香りを感じた。


灯台。波止場。船。海鳥。
海。

白と青との素晴らしいコントラスト。

宇宙から見た地球のように、白と青は混沌として混ざり合っているようでもあり、だけど決して水色は生まれない。




やがて木々が手前に現れる。
初春の淡い緑色の隙間から青色が見え隠れし始める。
やっと我にかえって、痺れた肘を曲げ、腰をおろした。

体をひねって窓に顔を向ける。
向かいの席に座った人に大きく咳払いをされたので、そっと窓を閉めた。


その時、何かがキラリと光った。


海と空の境界線の辺り。
世界の広がりを感じさせる一本の線。


存在を主張するためなのか。
誰かに気づいて欲しかったのか。


瞬きの間に消えてしまいそうな光。
細く儚い光。


それが一体何であるのか、全く見当もつかなかった。
何かの光りを見たことだけが確かだった。


水平線の瞬きを、俺は確かに捉えたのだ。














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