潮にのってきた彼女
哀しそうな表情で、アクアは続けた。


「わたし、海の上の世界に憧れてた。15になった時も嬉しかったの。でも最近では、人間たちはお話の中とは違ってしまったんだって……」

「……そうだな……」


確かに、今のこの世界は、海の中の生き物が憧れられるようなものじゃない。

違ってしまった。現代しか知らない俺も、そうなのだろうと思う。


未知の世界に憧れを抱くのは、きっと誰もが同じだ。
その汚い面を知ってしまえば、純粋な気持ちを持続することが難しいのも。


「……人間も、海の恩栄をうけているのにね」

「うん……」


うまく、言葉が返せなかった。

アクアの言うのは事実でありすぎて、俺の中では少しの罪悪感も頭をもたげていたから。


「なんて、言ってもしかたないわ。しょうごは、年、いくつなの?」

「17。ひとつ違いか」

「そうだね。でもわたしたちが知っていることは、きっと全然別のことだね」


生きてきた年月の差は、たった1年。

だけど本当に俺たちが今までに学んで来たことは、きっと根本から違っているもので、わかりあうことは難しそうだ。


「だからね、お互いに話すことは、それだけでも有意義なことになる思うわ。知っていることが倍になるもの。たくさん、話がしたいわ」

「……本当だ……」


アクアがさらりと言ってのけたのは、当たり前のようでいて、俺が1人では絶対に気づけなかったであろうことだった。
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