潮にのってきた彼女
「あ、じゃあ、あれ。人魚は海の底でもハープ弾けるって伝説。あれ、本当?」

「ハープ……?」


アクアは呟いて首を傾げた。


「えっと、弦が張られてて、指で弾いて音を出す楽器なんだけど」

「知らないわ。海の楽器は人魚たちだけよ。人魚たちの、自慢の歌声」

「へえー……」

「ちょっとだけ、歌っていい?」


歯を見せて笑うアクアの目は輝いていた。

両手が鎖骨のあたりに置かれる。
瞼が降り、アクアは空を仰いで息を吸い込んだ。

口が小さく開かれる。


「……すげー……」


音符が自由に居場所を選んで、海の上で楽譜を作った。
それを、アクアは音にしていた。

人魚が楽器というのは正しい表現だ。


音符がゆるやかに流れ出る。そして柔らかく形を変えながら、広がっていく。

周りの空気を震わせ、水平にどこまでも。

果てのない水の広がり。その歌は、海そのもののようだった。
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