潮にのってきた彼女
「今朝もぼーっとしてんな!」
「いてーよ」
尖ったひじで頭を小突かれた。
朔弥は、いつでも笑っている。笑顔を絶やさない、というか、どっからか湧き上がってでもいるみたいだ。
少しつり気味の目もそのにこやかさに緩和され、朔弥はぱっとみとても親しみやすい人間で、実際俺が引っ越して来た時のエピソードからもわかるよう、面倒見のいいやつだ。
朔乃の方は正反対と言っていいくらい人見知りが激しく、ひととの会話が苦手だ。
いつも伏し目がちで朔弥にべったりなのだが、美しく手入れされた黒髪と潤んだ瞳、小柄な体格、これだけ揃ったポイントに、一目惚れする男も少なくないらしい。
が、本人はそういう輩を全く気にも留めていないそうだ。朔弥談。
面倒見のいい朔弥に、大人しい朔乃。
誰がどういう風に決めるのかは知らないが、朔弥と朔乃はとても適正な組み合わせの兄妹だと思う。
「夏帆ちゃんとは?」
頭の後ろで両手を組んで朔弥は言った。
「別に、何も……」
「まじで? 連絡もなしかよ。夏帆ちゃん、相当ご立腹だな」
朔弥はうーんと唸って腕組みをしたが、正直、俺の頭はそれではないことばかりを考えていたのだった。
アクア
透明な響きは、一度思い出せばその儚さがしばらく頭の中にこだまする。
同時に、脳裏に焼き付いたあの笑顔。
色濃く鮮やかに蘇る。
早まる鼓動。
あまりのがきっぽさに、心の中で自嘲した。
「いてーよ」
尖ったひじで頭を小突かれた。
朔弥は、いつでも笑っている。笑顔を絶やさない、というか、どっからか湧き上がってでもいるみたいだ。
少しつり気味の目もそのにこやかさに緩和され、朔弥はぱっとみとても親しみやすい人間で、実際俺が引っ越して来た時のエピソードからもわかるよう、面倒見のいいやつだ。
朔乃の方は正反対と言っていいくらい人見知りが激しく、ひととの会話が苦手だ。
いつも伏し目がちで朔弥にべったりなのだが、美しく手入れされた黒髪と潤んだ瞳、小柄な体格、これだけ揃ったポイントに、一目惚れする男も少なくないらしい。
が、本人はそういう輩を全く気にも留めていないそうだ。朔弥談。
面倒見のいい朔弥に、大人しい朔乃。
誰がどういう風に決めるのかは知らないが、朔弥と朔乃はとても適正な組み合わせの兄妹だと思う。
「夏帆ちゃんとは?」
頭の後ろで両手を組んで朔弥は言った。
「別に、何も……」
「まじで? 連絡もなしかよ。夏帆ちゃん、相当ご立腹だな」
朔弥はうーんと唸って腕組みをしたが、正直、俺の頭はそれではないことばかりを考えていたのだった。
アクア
透明な響きは、一度思い出せばその儚さがしばらく頭の中にこだまする。
同時に、脳裏に焼き付いたあの笑顔。
色濃く鮮やかに蘇る。
早まる鼓動。
あまりのがきっぽさに、心の中で自嘲した。