潮にのってきた彼女
朔弥とは別れたまま教室に上がった。

教室の空気は、夏休み1週間前なだけあってなんとなく浮ついている。

これだから校長の話が長くなるんだよなあ。


「お、翔瑚。おはよう」


かばんを机に下ろすと、前の席の慧(けい)が本をパタンと閉じて言った。


「おはよう」

「朔弥たちは?」

「さっき会ったから、そろそろ来ると思う」


俺が普段一緒に行動しているのが、朔弥と朔乃と、慧だ。


慧は趣味が読書で、黒縁の眼鏡をかけている。
まるで典型的なエリートキャラ。

だが性格は温厚でたまにぬけているところもあったりする。とても好かれやすいやつだ。

実際学力は物凄い。
先生たちは、こんな離島にくすぶっているのがもったいないな、と言う。
口調は軽くても、本気で惜しむ教師は多いと思う。

本人は大学だけなら本土の医学部に行ってもいいかな、などとは言っているが、そのわりに受験科目すら調べようとしていない。


「そーいやお前さ、夏帆ちゃんと何かあったろ?」

「や、別に……」

「嘘つけ。さっき夏帆ちゃんが来て……」


その時、騒々しく足音を立てて机に近づいてくるやつがいた。


「しょーご!」


駆け寄って来たのは朔弥だ。少し後ろにはしっかり朔乃が控えている。

息を荒げ、朔弥は両手をバンと俺の机に置いた。
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