潮にのってきた彼女
「今、夏帆ちゃんと廊下で会ったんだ。放課後、風霧先輩と話したいって……」

「朔弥、声でかい。注目浴びたくはないだろ。今俺もそれを言おうと……翔瑚?」


朔弥の発言を聞き、俺は頭を抱え込んで机に突っ伏していた。


「……おーい、しょーうーごー」


夏帆の声をまねた朔弥の呼びかけも、無視。つか、似てないし。


ついに来た。俺は夏帆と話すのが、未だに苦手だ。苦手というか、緊張する。

ずっと逃げていた俺が悪いのはわかっている。

楽な方に逃げずに、きっちり話をつけるべきなのだ。これ以上引き延ばしても、夏帆を傷つけるだけになるだろう。


言いたいことを、言わなければ。
今までにも幾度となく思った。

夏帆の話というのも、性格からして別れ話とは考え難い。

逃げてちゃ駄目なんだ。


「あー……放課後……」

「あの夏帆ちゃんに言われて、そんなに気が重くなれんのはお前ぐらいだぞ」

「2年で正直一番人気あんの、さくだろ? そう考えると、翔瑚ってすごいよな」


慧は朔弥の隣の「さく」を見て言った。
俺以外の3人は、幼稚園からの仲らしい。


「な、さくは夏帆ちゃん、どう思う?」


朔乃に問いかけた慧は、変に笑顔を浮かべていた。

朔乃は慧の方を向いてまばたきを2回して、俺をちらりと見てから口を開いた。


少し前の朔乃の表情が浮かぶ。
嫌な予感が胸を過ぎった。
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