潮にのってきた彼女
「かわいんじゃない。でも、しょーごは他の子の方が、いいみたい」


朔乃が口を閉じたのと同時に予鈴が響いた。

空気を固まらせる発言をした朔乃は、何事もなかったかのように自分の席へ向かい、俺たち3人はそれを目で追っていた。


朔乃が椅子に座った途端、朔弥と慧はすごい勢いで俺の方に振り返った。


「誰だよ!」


……ああいった朔乃の予言的な発言は、外れたことがない。例に漏れず、今回も。


「しょーご、まじで? 夏帆ちゃんをさしおいて……」

「いや……朔乃、何言って……」

「嘘つけ。さくの予言は、外れねーんだよ。正直に吐け!」


まさか、童話じゃないんだから「人魚姫に恋をしました」なんて……。


……恋……?


「どうなんだよ!」


2人、朔弥が特に人目も気にせずにぎゃあぎゃあ騒ぎ立てている。


「別に、そんな相手……」


適当に言葉を濁していると、担任が教室に入って来た。
朔弥は自分の席に向かい、慧はぱっと前を向いて、俺は解放された。


安堵のため息をつく。しかし、今日一日は静かに過ごせないことに間違いない。


朔乃は、怖いな。
黙っててあげる、とか言ってなかったか?

そして、意識することより先に気づくのだ。





本人よりも先に。

定義の難しいその言葉は、俺の感情に当てはめて正しいのだろうか。


1人では出せない答えとわかっていながら、俺は自問自答を繰り返した。





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