潮にのってきた彼女
今日は日曜日。

思い切り背伸びをして起き上がった。
足の裏に冷たい床の感触が心地良い。

左肩をゆっくりと回す。
タンスの引き出しを開けて服を選んでいると、廊下からパタパタとスリッパの急ぐ音が聞こえてきた。


「翔瑚(しょうご)くん! 起きいや!」


住み込みのヘルパー、千歳(ちとせ)さんだ。


一人娘の母さんは、就職の時に島を出た。
それ以来ばあちゃんは一人暮らしだった。
旦那の話は、ばあちゃんからも母さんからも聞いた試しがない。

まだまだ元気なばあちゃんもさすがに若い頃と同じようには動けなくなってきたという。
この広い家を1人で管理するのは大変なので、数年前から千歳さんに来てもらっていたそうだ。


「若いもんが日曜の朝からダラダラと……」

「もう起きてるよ!」


説教じみた声が扉のすぐそばまで近づいたので、着替えていた俺は慌てて返事をした。


「そうか。はよ下りて来いな」


千歳さんは大声を残して離れて行った。


「あら、起きてはったみたいよ」


少しして、また声が聞こえる。おそらく階段の途中で、2階に上がって来ようとしたばあちゃんに報告しているのだろう。

ばあちゃんは生活態度に厳しい。急いで着替えを済ませ、階段を駆け下りた。
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