潮にのってきた彼女
醤油の香ばしい匂いが漂っている。

食卓には煮物、味噌汁、納豆と、地味色のおかずが並ぶ。
その中で島の特産品である鮮やかな色の野菜は、瑞々しく輝きを放っていた。
毒々しくない自然の原色。
とても不思議な色だと思う。


「翔瑚、突っ立っとらんで箸並べ」

「へいへい」


3人分の箸をつかみ、食卓に並べる。

ここへ来た当時は、本当にただ突っ立って、せかせかと働くばあちゃんと千歳さんをぼうっと眺めているだけだったので、食事のたびにばあちゃんにどやされた。

少しずつ要領がわかるようになってきてからは、皿を出したり箸を並べたりという当たり前のことをするようになり、今では簡単な郷土料理も作れるようになった。
時々は、ばあちゃんや千歳さんについていって畑仕事を手伝う時もある。


「今日は要次さんとこ行かなあかんね。蜜柑くれるて言うてはったわ」


にこにこと笑顔を浮かべて千歳さんが言った。

大らかで人付き合いのいい千歳さんはもちろん、この島の住民は例外なくみんな親しい。
物々交換から始まり、引っ越しや出産などという一大事には、近所中の住人が自然と集まる。
島全体が一つの家族のようだ。


「翔っ! 席着き!」


ばあちゃんの鋭い声で、俺は慌てて自分の椅子を引いた。
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