潮にのってきた彼女
「しょうご、左利き?」


ずくっと胸の内が疼いた。
無意識だった。


「いや」


不自然に目を逸らした。

瑠璃色が一瞬揺らいだのが視界の隅に映った。


「しょうご……?」


白い指が、少しだけ力を加えた。
たぶん、俺の左手が震えていたからだ。


無意識だった。
無意識だった。
無意識に、左手を伸ばしていた。

アクアを相手に、俺は自分でも気づかないほど気を緩めていたんだ。


目を逸らしたまま俯き、右手で左肩をぐっと握った。
やっぱり左の腕は震えていた。

風が冷たくなる。


俺は空気を壊してしまったことに気づいて、呟いた。


「……ごめん」

「なんでしょうごが謝るの。わたしの方が、ごめんなさい。わたし、何か」

「違う!」


叫ぶと、本当にすまなさそうな表情を浮かべたアクアと目が合った。


「違う。アクアは、悪くない……」


もう一度、目を逸らしかけたができなかった。

ひとたび瑠璃色に心ごと捉えられれば、逃れることは難しかった。


「無理には話さないで、ね」


アクアは手を離し、優しく微笑んで言った。
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