潮にのってきた彼女
「ほら、見てみ」


ながじぃがゴム手袋の手で、ネットをひとつ引き上げて見せた。


「こん中で、真珠が作られてる。貝が働いとるんや」

「すげー……」


二段になったネットの中には、アコヤ貝が数個入っている。小さく開いた貝の口から薄く虹色の光が漏れていた。


「いつできるんだ?」


朔弥は既に興味津々だ。

一戸建ての骨組みをそのまま海に寝かせたような足場はかなり悪いが、朔乃も朔弥のTシャツの裾をつかみながら目を輝かせている。


「一斉に引き上げるんは、大抵12月から2月や」

「今は? どうなってんの?」

「今は核入れが終わったところや」

「核入れ?」

「真珠の元みたいなもんを、真珠を作ってくれる貝たちの中に入れるんや。細かい仕事も手作業やで」

「へえー……」


俺たちは4人揃って感嘆のため息を漏らしていた。


いつもにこにこと笑って、たまに海産物を持って来てくれたりするながじぃと、今のながじぃは少し違った。

作業着にゴム手袋のながじぃは、誇らしげに自分の仕事を紹介している。

いるべきところにいる、という感じだ。

ながじぃは真珠の養殖所にいてこそ本当のながじぃなのだ。


「ながじー、嬉しそう」


ぽつりと朔乃が言った。


「嬉しいよ。好きな仕事ができて、こんな若い子らが自分のやってることを見てくれとるんやから」


流れの静かな湾に浮かんだ、足場の悪い養殖所。

ここがながじぃのいるべきところだ。
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