潮にのってきた彼女
「ハート形に、見える」

「本当だ! しょーご、どーゆーつもりだよー!」


別れるつもり、と言った先から夏帆にハートの形の真珠をプレゼントすると思ったに違いない。

朔弥は半分笑いながらいろいろと言っていたが、全部聞こえないふりだ。


「さくちゃんは、どれにすんのや?」


微笑ましげにながじぃは言って、朔乃は箱に視線を落とした。

一度視線が上がり、慧、続いて俺を一瞥する。

ほんの一瞬のことだったが、朔乃のその行動は妙に印象強く頭に残っていた。


朔乃が口を開く直前、俺はやっと、慧が今のやりとりの中で一言も発していないことに気がついた。


「あたし、これ」


朔乃が選んだ真珠は少し細長く、下は丸みを帯びていて、上は自然に尖っていた。

雫の形、というか、涙形だった。





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