潮にのってきた彼女
「今日、真珠の養殖を見たんだけど、それ、もらってきたんだ」

「すごーい……」


アクアは水をすくうみたいに両手を重ねた上に、真珠をのせた。


「すごいね。朱くて……えーっと、ハートの形。心の形ね」


海に住むアクアにとって、真珠なんてものはありふれて何のおもしろみもないんじゃないかと懸念していたが、取り越し苦労だったようで、ほっとする。


「フルフィルパール、何の情報も得られなかったんだ。だからってわけじゃないけど、プレゼント」

「もらっていいの? ありがとう……大事にするね」


素直な感情表現は、プレゼントを贈った側にまで喜びを与えてくれる。
アクアは嬉しそうに笑った。


「真珠さ、やっぱり見当のつけようがないな」

「そうだよね……うん、わたし、明日他の仲間に聞いてみるわ。2日ぐらいかかると思うけど、何か情報があるかもしれない」

「そっか。よろしく」


平然と言いはしたものの、心の中で大きくため息が出たことに、俺は気づいていた。


明日、会えないな。

一週間も前には話したことすらなかった相手に、一日会えないというだけでこんなにも落ち込むものだろうか。


「見て。太陽、半分ぐらい溶けてるね」


楽しそうに笑うアクアと、朱くひりひりと燃える太陽の溶ける海は、少しだけ胸に痛かった。


結構、重症かもしれない。





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