潮にのってきた彼女
るるるるる……と、受話器の向こうで発信音が鳴り始める。
耳にはその音と、自分の心臓の音だけが聞こえる。

朔弥も朔乃も慧も、固唾を呑んで、夏帆が電話に出るのを待っている。

同じ音が数ターン繰り返された。


「出な……」


言いかけた時、がちゃりと音がした。


「もしもしっ!?」


3人がぐっと身を乗り出す。


『……翔瑚?』

「うん、そう」

『どうしたの?』


明るく機嫌の良さそうな声だったが、なんとなく細々としていた。


「えっと……明日、予定ある?」

『んーとね……明日は何もないよ』

「じゃあ明日……海、行こう。朔弥たちが一緒にって……」

『朔弥先輩……』


夏帆の声のトーンが暗くなった。


『朔弥先輩ってことは、朔乃先輩も一緒……?』

「うん、慧も、一緒だけど」


急に電話の向こうが沈黙に包まれた。
無音をしばらく聞いたあと、恐る恐る返してみる。


「……夏帆?」


妙な様子を感じ取ったらしく、朔弥は目をしばたいていた。軽く、眉間にしわを寄せて見せる。


『あたし、やめとく』


夏帆は冷たい調子で言い放った。


「何で……」

『やめとく。悪いけど。翔瑚……』


何か言いたそうだった。ごくりとのどの鳴る音が聞こえた。


『……先輩たちに、よろしく……』


結局言葉は飲み込まれたままで、電話は予想以上の唐突さをもって終了された。
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