潮にのってきた彼女
結局、海行きは中止になった。
俺がまた夏帆を誘い、一緒に行けることになったら5人で行こう、と。



次の日はまたかんかん照りで、からりと晴れていた。
風鈴の音よりも、命を削って鳴くせみの声が強烈だ。

俺は、風通しのいい居間で宿題と格闘していた。


「進んどるか?」


畑仕事をしていたばあちゃんが裏口から入って来て、麦藁帽をとりながら言った。


「まあ……あんまり」


ため息を漏らし、あぐらをかいた。
開始から1時間。現在開かれているのは『夏休みの友』5P。

もともと推薦で高校に入ったこともあって、勉強すること自体が苦手だ。
今解法探しに苦労しているのも、高校に入って初めに習う単元というありさま。


ばあちゃんは、どっこらしょ、と土間から上がった。


「翔瑚、いつ頃帰る」

「ああ……」


初めての帰省。いつがいいだろう。お盆は込むだろうな。別に大した予定もないし、お盆以外ならいつでもいい。


「お盆以外の……どっかで。うーん、8月に入って、ちょっとしたら」

「計画性ないなあ」


ふふっと、少女のように笑って、ばあちゃんはぽつりと言った。


「おんなじや」

「え?」

「あのひとと」


ばあちゃんの背筋がほんの少し、すっと伸びる。
いつか見た覚えがある姿。

今、その瞳は遠いところを見つめている。
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