潮にのってきた彼女
代償。代わりの償いとしてひとつの命というのは、重すぎる気もしたし、軽いような気もした。

仮にひとつ目の願いで自分を不老不死にしてくれと頼めば、あとの6つの真珠には、何の気兼ねもなく願い事ができるわけだ。

今回の場合、それは既に不可能なわけだが。


まあ、噂というのはそういうものなのだろう。
7つ真珠が何度使用されるとしても、おそらく代償に関するその噂は、6つ目まで真珠が使われてから流れるのだ。

物事は、そんなにうまくいくように作られていない。


「……でも、噂だから。本当かどうかわからないわ。もし本当だとしたら、真珠を見つけられた場合、どうすればいいんだろうって、思っちゃったけど」

「事情を女王に話せば……」

「謁見なんて認められてないわ。わたしはシェルラインだし。それにきっと、信じてなんかもらえない」


悔しそうに、アクアは言った。

ろうそくの灯は心もとなく、洞くつが暗くなった気がしたので、話題を変えようと思った。


「……誰なんだろうな。その、アクアのおじいさんが信用してた人間、って」

「そうだね……祖父は、海の上で見た物の話をよくしていたらしいわ。人間の世界が、好きだったのかも」


海の中から陸の世界を見ると、どんな風に見えるのだろう。
そこには憧れや羨望の眼差しがあるのかもしれないし、軽蔑や嫌悪の感情があるのかもしれない。

アクアたちにとって、『陸』は未知の世界なのだ。


「わたしも、よく知っているわけじゃないけれど、人間の世界が好き。人間と共存することができたら、できる日が来たら、すてきだと思う。難しいけれど」


アクアは夢見るような表情をしていた。
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